親を呼び寄せるときは、通常の引越しと同じ転出届・転入届に加えて、「同じ世帯にするか、世帯を分けるか」という判断が必要になります。この選択は介護保険料や介護サービスの自己負担額に影響するため、届出の前に整理しておきましょう。
手続きの基本は通常の引越しと変わらない
親の住まいを自分の近くへ移す場合でも、住民票まわりの手続きそのものは通常の引越しと同じです。旧住所の市区町村に転出届を出し、新住所の市区町村に転入届を出します。
転入届の期限は、新しい住所に住み始めた日から14日以内です。正当な理由なくこの期限を過ぎると、簡易裁判所から過料に処される可能性があります。呼び寄せの場合、実際に親が移り住んだ日が起算点になるため、「荷物だけ先に運んだ」「住み始めたが届出は落ち着いてから」といった状態が続かないよう注意してください。
なお、マイナンバーカードを持っている場合は、マイナポータルから転出届をオンラインで提出できます。この場合、旧住所の役所へ行く必要がなくなるため、遠方から呼び寄せるケースでは特に有効です。詳しくは「マイナポータルで転出届を提出する方法」で解説しています。
親が窓口に行けない場合は代理人が届出できる
高齢の親が長距離移動の直後に役所へ行くのは負担が大きく、体調によっては難しいこともあります。この場合、子どもが代理人として転入届を出すことができます。
代理人が届出をする際に必要なものは、おおむね次のとおりです(豊島区の案内を例にしています)。
- 転出証明書(旧住所の市区町村で交付されたもの。マイナポータルで転出届を出した場合は不要な場合があります)
- 委任状(親が作成し署名したもの)
- 代理人(子ども)の本人確認書類
- 転入する人全員のマイナンバーカード(持っている場合)
委任状には決まった様式がない自治体が多いものの、必要事項が欠けていると受け付けてもらえません。多くの市区町村がウェブサイトに様式と記入例を掲載しているので、それを使うのが確実です。
ここで注意したいのが、転入の時点では親と自分はまだ別世帯として扱われるという点です。同一世帯の家族であれば委任状が不要な手続きもありますが、呼び寄せの転入届はその条件に当てはまらないため、原則として委任状が必要になります。
同居する場合、「同一世帯」か「世帯を分ける」かを選ぶ
住民票でいう世帯とは、住居と生計をともにする人の集まりを指します。したがって、同じ家に住むこと(同居)と、同じ世帯であることは別の概念です。同じ家に住みながら、住民票上は別世帯とすることもできます。
この選択は、転入届を出すときに決めます。届出書に「世帯主と同じ世帯にする」か「新しく世帯をつくる(別世帯にする)」かを記入する欄があります。
転入後に変更したい場合は、あらためて「世帯変更届」を出します。世帯を一つにまとめる場合が世帯合併、分ける場合が世帯分離です。横浜市の案内では、届出期間は変更が生じた日から14日以内、届出できるのは本人・世帯主・同一世帯の家族、または委任状を持つ代理人とされています。
世帯を分けると介護や医療の自己負担が変わることがある
世帯の分け方が費用に影響するのは、介護保険や医療保険の負担額が「本人の所得」だけでなく「世帯の課税状況」で判定される仕組みになっているからです。主に次の4つが関係します。
65歳以上の介護保険料。 保険料の段階は、本人の所得と世帯の住民税課税状況の組み合わせで決まります。世帯に課税者がいるかどうかで段階が変わります。
介護サービスの自己負担割合(1〜3割)。 本人の合計所得金額に加えて、同一世帯にいる65歳以上の人の所得も判定に使われます。
高額介護サービス費の上限額。 1か月の自己負担額が上限を超えた分が払い戻される制度ですが、この上限額も世帯の課税状況で決まります。同一世帯の負担額は合算して判定されます。
負担限度額認定(施設の食費・居住費の軽減)。 これは要件が厳しく、世帯全員が住民税非課税であることに加え、預貯金額が基準以下であることが必要です。
つまり、親の年金収入が少なく非課税であっても、課税されている子どもと同一世帯になると、これらの判定で不利になる場合があります。逆に世帯を分けることで負担が軽くなるケースもあります。
世帯分離にはデメリットと前提条件がある
ただし、世帯分離を「介護費用を下げる手段」として単純に考えるのは危険です。次の点を必ず確認してください。
国民健康保険料はかえって高くなることがあります。 国民健康保険料には世帯ごとにかかる平等割があるため、世帯を2つに分けると、その分が二重にかかります。世帯全体で見ると増えることがあります。
世帯合算ができなくなります。 高額療養費や高額介護合算療養費は同一世帯で合算して計算しますが、世帯を分けるとそれぞれ別に判定されるため、合算による軽減が受けられなくなります。
勤務先の家族手当・扶養手当の要件から外れることがあります。 手当の支給要件に「同一世帯」を含めている会社もあります。
手続きのたびに委任状が必要になります。 別世帯になると、親の住民票の取得や各種届出を子どもが代理で行う際、その都度委任状が求められます。日常的に手続きを代行している場合、この手間は無視できません。
そして最も重要なのが、世帯分離は「生計が別であること」が前提の届出だという点です。費用の軽減だけを目的とした申請は、窓口で実態を確認され、認められないことがあります。特に夫婦間の世帯分離は、民法上の協力・扶助義務があるため受理されにくいとされています。実態と異なる届出をすることは避け、判断に迷う場合は市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談してください。
呼び寄せと同時に発生する主な手続き
住民票の異動が済んだら、それに連動する手続きが続きます。呼び寄せのケースで漏れやすいものを挙げます。
- 介護保険:要介護認定を受けている場合、転入から14日以内の申請で認定が引き継がれます。詳しくは「親の地方移住・介護保険の手続き|要介護認定の引継ぎ方法」をご覧ください
- 後期高齢者医療:親が75歳以上で県外から移る場合、「負担区分等証明書」が必要です。「高齢者が県外へ引越す場合の後期高齢者医療制度の手続き」で解説しています
- マイナンバーカードの住所変更:転入届と同時に手続きします。暗証番号の入力が必要なため、親本人か、暗証番号を預かった代理人が行います
- 印鑑登録:転出により旧住所での登録は失効します。新住所で必要になれば登録し直します
- 郵便物の転送届:旧住所宛ての年金や保険の通知を受け取り損ねないよう、早めに出しておきます
呼び寄せは、親にとって生活環境が大きく変わる出来事です。手続きの負担を子どもが引き受けられるよう、委任状の準備と手続きの順番だけは、引越し前に決めておくことをおすすめします。
年金の住所変更が必要かどうかは、引越しで国民年金の住所変更は必要?届出が不要になるケースで解説しています。
まとめ
- 呼び寄せでも手続きの基本は同じ。転出届を出し、住み始めてから14日以内に転入届を出す。マイナポータルを使えば旧住所の役所へ行かずに転出届を提出できる
- 親が窓口に行けない場合は子どもが代理で届出できる。転入時点では別世帯扱いのため、委任状と代理人の本人確認書類が必要
- 同居しても住民票上の世帯は分けられる。介護保険料・自己負担割合・高額介護サービス費・負担限度額認定はいずれも世帯の課税状況で判定されるため、世帯の分け方が費用に影響する
- ただし世帯分離は国民健康保険料の増加や世帯合算が使えなくなるなどの不利もあり、「生計が別」であることが前提。費用軽減だけを目的とした届出は認められないことがある
公式情報・確認先
この記事は2026年7月26日に確認しました。必要書類・窓口・保険料は自治体や加入状況で異なるため、手続き前に最新の公式情報をご確認ください。


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